1型糖尿病で障害厚生年金3級を受給した事例
代謝疾患による障害 / 糖尿病
【もくじ】
傷病名・決定内容
◇ 1型糖尿病
◇ 障害厚生年金3級
ご依頼の経緯
ある日のことです。株式会社B様より電話相談がありました。
「従業員のAさんが職場で倒れて頭部を強打した。頸椎に障害があるみたいなので障害年金の相談に乗ってもらえないか?」との内容でした。
ヒアリングを深めていくと、「頸椎の障害はあるようだが、障害の原因がはっきりしておらず診断名がつきにくいそうだ。Aさんの主治医は、障害年金が取れるほど重度な肢体不自由ではないため診断書は書けないと言っている。」とのことでした。
しかし、 実際のAさんは1人では足がすくんで前に進めず、数メートル先へごみ捨てに行くことですらも厳しい状態であり、原因不明の発作用症状に悩まされていました。
年金申請の受給要件の突破口を探るため、頸椎の障害以外にも悩まされている諸症状はあるかどうか相談内容を広げていくと、Aさんは「1型糖尿病」を患い、インスリン投与をしながら血糖コントロールの治療をしていることが明らかになりました。
Aさんの発作症状に対して、糖尿病の合併症ではないかと言う医師もいたそうですが、Aさんは各発作症状別の通院先があり、診療病院を統一していませんでした。
そのため、通院先の病院の医師によって見解が異なるという状態でした。
障害年金の申請理由を「頸椎の障害」から「1型糖尿病」に切り替え、手続きを進めていくことになりました。
請求のポイント
糖尿病とは
糖尿病とは膵臓からでるインスリンの働きが悪くなることによって血液中にあるブドウ糖(血糖)が増えてしまう病気です。
インスリンは糖の代謝を調節し血液中の糖を一定にする働きがあります。
しかし、糖の代謝が正常に行われないと血管が傷ついてしまいます。
そのため心臓病や失明、腎臓病などの命にかかわる重い病気を引き起こしやすくなる恐ろしい病気です。
1型糖尿病と2型糖尿病の違い
糖尿病は大きく分けて1型糖尿病と2型糖尿病の2タイプあります。
1型糖尿病とは、インスリンを作る膵臓の細胞が何かの原因により壊されてしまい、インスリンがつくられなくなることよって発症します。
発症に年齢は関係ありませんが、若者や子どもに多くみられます。
インスリンを体外から補給をしないと命にかかわる病気であるため血糖値のコントロールにはインスリン注射が必要です。
2型糖尿病は遺伝的に糖尿病になりやすい人が肥満や運動不足、ストレスなどが原因となって発病します。
インスリンの効果が十分でないことや、分泌のタイミングが悪くなり血糖値が上がります。
糖尿病を患う患者さんの9割以上が2型糖尿病です。
そして大半の方が40歳を過ぎてから発症しています。
食事療法や運動療法を中心に血糖値のコントロールをするのが一般的です。
どんな人が障害年金を請求できるの?
適切な治療を行っているにも関わらず血糖コントロールが困難な人を対象として障害年金が請求できます。
具体的には以下の状態をさします。
1.検査日より前に90日以上インスリンの治療を行っていること
2.以下のいずれかに該当をしていること
・内因性のインスリン分泌(※1)が枯渇している状態で、空腹時ないしは随時の血糖ペプチドの値(※2)が0.3ng/mL未満を示すもの
・意識障害により自己回復ができない重症低血糖の所見が平均して月1回以上あるもの
・インスリン治療中に糖尿病ケトアシドーシスまたは 高血糖高浸透圧症候群による入院が年1回以上あるもの
3.一般状態区分表のイまたはウに該当していること
※1内因性インスリン分泌:自分の膵臓から出されるインスリンのこと
※2血清cペプチド: インスリン分泌の評価に利用が可能。
基準値は0.8~2.5(ng/ml)
糖尿病初診日
障害年金を受給するためには ①初診日要件の証明 ②保険料納付要件 ③障害の程度が認定基準に該当することが必要です。
糖尿病を患う方は病歴が長いケースが多く、Aさんも発病したのは20年前でした。
そのため①初診日要件の証明が難航する可能性が考えられました。
通院先を調べてみるとAさんの初診はX病院で現在のZ病院とは異なる病院でした。
初診日の記録をさかのぼるためにX病院から現在のZ病院までひとつひとつ順番に調査をする必要がありました。
幸いにもX病院でカルテが残されていたため、①初診日要件の証明は問題なく行うことができました。
医師法第24条第2項においてカルテの診療録の保管期間は5年と定められています。
よってAさんのカルテは破棄されていてもおかしくはない状態でした。
【参考記事】初診日ってなに?障害年金の初診日について詳しく解説します
糖尿病の合併症状
糖尿病には「しめじ」とよばれる3大合併症状があります。
高血糖により、手足の神経に異常をきたし、足の先や裏、手の指に痛みやしびれなどの感覚異常があらわる神経障害(し)、眼の細い血管がボロボロになり失明に至るリスクをもつ網膜症(め)、さらに腎臓の働きが悪くなる腎機能障害(じ)です。
さらに3大合併症のほかにも壊疽(え)、脳卒中(の)虚血性心疾患(き)といった合併症があり「えのき」と覚えることができます。
これらは高血糖による動脈硬化が原因です。
合併症状が障害年金に該当する場合においては、併合認定が行われます。
それによって障害年金が上位等級に上がることもありますが、注意することは目の合併症状です。
眼の合併症状が出現した場合の原因は糖尿病であるので、初診日は眼科ではなく糖尿病となります。
【参考記事1】糖尿病性腎症で障害年金をもらうには
【参考記事2】障害年金は何を基準に決めるの?(代謝疾患)
診断書について
診断書を確認したところ、医師の記入漏れが多い状態でした。
さらに一般区分表の項目欄「ア」にチェックが入っておりAさんは日常生活において何ら支障がない状態であると医師より判断されていました。
残念ながらAさんの日常生活上の支障は、医師に対して正確に伝わっていなかったのです。
これはAさんだけにみられる特異なケースではありません。
医師の所見と当事者の申告の食い違いが起こり診断書に不備が生じることは少なくはないのです。
代理人の私は診断書の加筆と訂正を求め、X病院へ足を運びましたが、担当医師がなかなか希望に応じてくれませんでした。
そしてとうとう診断書の有効期限(3か月以内)が差し迫ってきたのです。
医師の診断書上における不足部分は当事務所の申立書で付け加えを行いました。
さらにほかの医療機関での検査結果も加えて提出しました。
審査には非常に時間がかかりましたが、結果的にAさんは障害厚生年金3級の受給権を得ることができました。
まとめ
今回は、1型糖尿病の既往歴があり頸椎損傷を機に障害年金申請の依頼をしたAさんを事例に取り上げました。
頸椎損傷から1型糖尿病に申請理由を変更したことで障害厚生年金3級の受給権を得ることができました。
日本の糖尿病患者総数は320万人以上です。(平成29年厚生労働省より)
総数が多い病気であるからこそ誰もが聞いたことがあるメジャーな病気の1つであるかもしれません。
しかしながら、患者数が多いにも関わらず糖尿病が障害年金を受給できる権利がある病気であることは当事者の方にはあまり知られていません。
Aさんのようなケースの多くはご本人が年金事務所に相談に出かけても、肢体不自由で手続きが進むことが多く糖尿病の既往歴までヒアリングをしてもらえないことが往々にしてあります。
その結果、年金申請が受理されず徒労に終わってしまうのです。
診断書に不備があってもあきらめないこと、当事者のヒアリングを深め多角的な方向から障害年金申請の可能性を見つけることがとても大切です。